手付金を取り戻すまでの記録
積み重ねられる嘘
時間が経過すると自動的に履行の着手となる?(契約から71日目)
勝負をかけてから、初めての面談となる。
この日は土曜日で、仕事は昼まで。
その日は、朝から仕事が手につかなかった。
相手がこうきたら、こう返す。
そんなことばかり考えて、仕事が終わると、現地に向かった。
相手は、強引な営業マン。土曜日なので、営業所の中には他の客もいるだろうから、もしもの時は、大声で「また、嘘ついて印鑑押させるんですか!!」などと言えば、逃げられるかな、と考えながら営業所に向かった。
ところが、営業所の中に入ってみると客は一人もいない。
入口に女性の営業がいる。顔がなんとなくひきつっているような気がする。
もしかしたら、僕が来るのでわざわざ他の客を入れないようにしたのか?と思いつつ、案内された奥の席に座った。
こんな奥に案内されると取り囲まれているような気がして恐ろしかった。これも悪徳業者の手口の一つなのだろうか?
しかし、今回は初めてここに来てわけもわからず契約してしまった時とは違う。
ある程度の予備知識も踏まえた上で来ているのだ。絶対に業者の脅しには屈しない。
しばらくすると、担当営業マンが来た。
「おひさしぶりです▽▽様、だいぶ時間が空いてしまってこちらは大変迷惑しているのですが・・・」
こちらを睨むような形相で、担当営業マンは話し始める。
契約から引き渡しまでの一般的な期間があり、間取りは正式契約を結ぶまで何度変えてもいいとは言ったが、1年も待つとは言っていない等々の話をされる。
「あなたは口約束でも民法上契約は成立すると言ったでしょう。僕はそのとおりにしているだけですよ。一年後の気持ちで間取りを決めたいんです。もちろん他に良い物件が見つかって解約することも含めてです。」
「一年後に契約を解除されるというのは困る。」
「手付金を放棄すれば解約できると契約しているじゃないですか。」
こういったやりとりが続く。担当営業マンの顔はどんどん般若のような顔になっていき、今にも殴りかかろうとするような殺気さえ覚えた。
「▽▽さんがおっしゃる通り、契約書に期限は書いてありませんので、法律上は何年待っても問題はありません。」
「法律上、問題ないなら問題ないでしょう。」
「いえ、時間がそれなりに経つと、当社もいろいろと準備を進めている状態になります。つまり、当社は【履行の着手】を行ったという状態になりますよ。もう解約できない状態です。」
「ええっ!?」
驚いた。こちらが、間取りを決めない限り、【履行の着手】にはならないと考えていたので、長期間の時間が過ぎると自動的に【履行の着手】が成立するという説明に動揺した。自分自身落ち着かせるように、ゆっくり話そうとするが、心臓の鼓動が早いのがわかった。
「しかし、法的には土地の所有者が固定資産税を払わないといけません。▽▽様の土地となるものなのに、土地に対する固定資産税等を当社が払わないといけなくなります。だから、土地の契約だけは先にしていただかないといけません。土地の契約を先に済ませてもらえば、あなたが言うように間取りは1年以上かけて考えてもらっても構いません。」
僕は質問した。
「本当に時間が経ったら、履行の着手になるんですか?」
「1年も時間がかかったら当然でしょう!だから、今すぐにでも、土地の契約をしておかないといけないんです。わかりましたか?」
業者の威圧的な物言いにたじろぐ。
僕も【履行の着手】については調べていた。買主か売主が【履行の着手】に当たる行為を行っていたら契約は解除できないことを。そして、【履行の着手】後に契約解除することになった場合は、契約代金の2割を支払わないといけなくなることも。
喉がカラカラになってきた。焦る。
ここにいたら、危ない。
今、この場で土地の契約を交わさないといけないのだろうか?そんなはずはない。
とにかく、この場での決断は避けて、逃げよう。
僕は、さっと立ち上がり、
「今日はこの後用事がありますので。バスの時間があるので、帰ります。」
と言い、荷物を持って、立ち上がった。
この瞬間の担当営業マンの態度は今でも忘れられない。
担当営業マンは、顔を真っ赤にさせ、恐ろしい形相で、「チッ!」と舌打ちをした。
これが、当初営業所に訪れたときは、満面の笑顔で接客していた担当営業マンの本性をなんだ・・・。
分けもわからず契約してしまう前に、なぜ、こんな営業マンの本当の顔を見抜けなかったのだろうか。自分が腹立たしかった。
「ちょっと待てよ!今、大事な話をしてるところでしょうが!!」
腕を掴まれそうになったが、サッとかわし、足早に出口へ向かった。素早く靴を履くと、扉を開け、営業所の外に出た。
背中から、「▽▽さん!!来週は、時間ありますか!?」と聞こえた。
「今日、説明していただいた土地の契約を先に行わないといけないといった内容を書面で作成してもらえますか?それからまた、電話ください。急ぐので、失礼します。」
と言うと、
「わかりました。資料は作っておくので、来週必ず来てくださいよ!!」
という声が聞こえた。
小走りに僕はその場を離れた。
積み重ねられた嘘
時間が経過すると、業者も準備を進めているので【履行の着手】となってしまう?
どうしよう。そんなことになってしまったら、違約金で数百万円支払わないといけなくなる。もしくはあの悪徳業者が建てる家を、年収の何倍にもなるローンを組んで、買わないといけなくなるのか・・・。
悲嘆に暮れながら、帰路についた。
「とにかく、もう一度【履行の着手】について調べてみよう」
家に帰ると、すぐにパソコンを立ち上げた。履行の着手となる行為について調べてみるとすぐにあることがわかった。
あの担当営業マンは、一度ならず二度までも、大嘘をついていたのだ。
売主の契約履行の着手となる行為に、買主の希望に応じて土地の分筆登記を行なったときと書いてあった。
「時間が長期間経過するので【履行の着手】になるのではない。
担当営業マンは、僕に無理やりにでも土地の契約を行わせて、【履行の着手】を行った状態にさせたかったのか。」
売主の契約履行の着手となる行為 |
買主の契約履行の着手となる行為 |
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・買主の希望に応じて土地の分筆登記を行なったとき |
・中間金 (内金) の支払い(手付金は該当しない。) |
あれほど、強引に土地の契約を迫ったのは、【履行の着手】となる行為をこちらにさせて解約させないようにするためだったということがわかると、ほっとすると同時に、業者に対する怒りが込み上げてきた。